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最高裁判所第二小法廷 昭和34年(オ)1099号 判決 1963年1月18日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人高橋万五郎の上告理由第一点の一について。

論旨は、境界確定訴訟と所有権確認訴訟とは性格が相違し、両訴における攻撃防御の方法、裁判官の釈明権行使の限度等に重大な相違を来し、従つて訴訟手続は一変し遅延を来すことは明白であるのに、原審が、その結審直前に前者から後者への請求の交替的変更を許したのは、請求の基礎に変更がないにしても、著しく訴訟手続を遅延させるから違法であると主張する。

しかし、本件記録によれば、被上告人が請求を変更したのは昭和三四年一月二〇日の口頭弁論においてであり、次回期日である二月一七日には証人二名を調べて弁論を終結しているのであるから、著しく訴訟手続を遅延させたとはいえない。論旨は理由なく、採用しえない。

同第一点の二について。

論旨は、旧訴の取下げについて、上告人が明白に同意したとはいつていないのに、原審が釈明権を行使せずに「それとなく同意した」と認定ているのは違法であり、旧訴の取下についての上告人の同意はなかつたと見るべきであると主張する。

しかし、新訴により旧訴の請求の趣旨又は原因を変更した場合に、相手方がこれに対し異議を述べずに新訴につき弁論をしたときは、相手方は旧訴の取下につき暗黙の同意をしたものと解するのを相当とする(昭和一六年三月二六日大審院判決、民集二〇巻三六一頁参照)ところ、本件記録によれば上告人は異議なく新訴につき弁論をしていることが認められるから、この点についての原審の判断は相当である。論旨は理由なく、排斥を免れない。

同第二点前段について。

論旨は、時効中断を生ずる時期は相手方に訴状が送達された時と解すべきだと主張するにあるが、訴提起の時であること民訴法二三五条に明文の存するところであるから、所論は採用しえない。

同第二点後段について。

論旨は、旧訴である境界確定の訴は昭和三四年一月二〇日取下げられているのであるから、同訴の提起によつて生じた取得時効中断の効力は民法一四九条により消滅するのに、原判決は、旧訴と新訴とはその請求する権利関係に殆んど差異がないから、旧訴の取下げにも拘らず同訴によつて生じた時効中断の効力は消滅しないと判示したのは、民法一四九条、民訴法二三五条に背馳すると主張する。

しかしながら、本件繋争地域が被上告人の所有に属することの主張は終始変わることなく、唯単に請求の趣旨を境界確定から所有権確認に交替的に変更したに過ぎないこと、本件記録上明白である。このような場合には、裁判所の判断を求めることを断念して旧訴を取下げたものとみるべきではないから、訴の終了を意図する通常の訴の取下げとはその本質を異にし、民法一四九条の律意に徴して同条にいわゆる訴の取下中にはこのような場合を含まないものと解するを相当とする(昭和一八年六月二九日大審院判決、民集二二巻五五七頁参照)。されば、旧訴たる境界確定の訴提起によつて生じた上告人の所有権取得時効を中断する効力は、その後の訴の交替的変更にも拘わらず、失効しないものというべきである。右と同趣旨の原判決は相当であつて、所論は採用しえない。

同第三点について。

所論の事実は被上告人が事情として述べたこと、所論準備書面を通読すれば明白であり、本件境界が原判決別紙図面表示ニホヘ線であることは、被上告人が本件訴訟において終始一貫主張してきたところであるから、原判決には被上告人の主張しない事実について判断した違法はなく、所論は排斥を免れない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 池田克 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一 裁判官 山田作之助 裁判官 草鹿浅之介)

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